クラッシュ

80年代、クラッシュ・ギャルズ。90年代、クラッシャー・バンバン・ビガロ。そして2005年2004年(米公開)、映画『クラッシュ』。というわけで、”クラッシュ”シリーズの最新作が公開されましたというのは嘘ですが、観に行ったんですかあなたは、映画館へ行ったのですかという話。日本時間では明けて月曜の午前中の発表となるアカデミー賞でも作品、監督、脚本、助演男優(マット・ディロンさん)、編集、主題歌にノミネートされてますね。アカデミー賞取ったのがいい作品とは一概に言えませんけど、ノミネートされるだけのものはありまくりだったのはご覧になった方なら納得でありましょう。アメリカはロサンゼルス、時期はクリスマス。ここで起こる事故、事件を複数の登場人物から描き出し、それぞれがやがて交差し、衝突(『クラッシュ』)していく。冒頭からみんなイラついている、とにかく出てくる人がみんなイライラしている。私は観ながらあまりいい気分はしなかった、嫉妬したり、疑ったり、人間の嫌な部分ばかりが描かれていくから。ところがある事柄をキッカケに物語がどんどん収束に向かっていくと、そこからは、まばたきを忘れ、呼吸を忘れ、ひたすらスクリーンを見つめ続けていました。監督のポール・ハギスさんは長年アメリカTVドラマの脚本を手がけ、『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本で映画デビューをしたそうです。なるほどなるほど各エピソードをまとめ上げる手腕はさすがですね、特にある事件の被害者が誰であるかがわかるシーンは映画館で観ている人が「ハッ」と息をのんだのではないだろうか。なにか謎が解き明かされるとか、どんでん返しとかじゃなくて、”語らない”のです、語らずにこちらが歩み寄って覗き込んだところで”気付かせる”、ここはやられたぜ。たくさんの登場人物がいて、観ながら「あーこの人はあの作品に出てたな」とか「久しぶりに見るねー、なんか所帯じみたな」とか勝手なことを思ってしまうのですが、そのうちだんだんと作品の中に溶け込んでいき、作品の中で生きだすわけです。『クラッシュ』を見ると「人間て一人じゃないんだよ、ガンバロ」という優しさ方面からと「てめえ一人で生きてると思ったら大間違いだよ」という厳しい方面からのエールが聞こえてくるのです。これで上映時間が2時間切っているのだから恐るべし。これはぜひ映画館で観て欲しいですね。なんか他人は他人なんだってことを再認識させてくれました。こんだけ他人がいるんだ素晴らしいなと。もちろんいい意味で。いい意味好きのあなたは必見。(追記)第78回アカデミー賞において『クラッシュ』は作品、脚本、編集の三部門を受賞しました。zoot32(『空中キャンプ』)さん、おめでとうございます。