東京のおばけ、昼歩く。『叫(さけび)』

東京のことはしばらくそっとしておいてあげようよ。そんな映画です。黒沢清さんの作品は単館が多くてなかなか近所まで来ず、かといって大都会まで出て観ようとすると、ネットではなんだか難しげに語られており、面倒くさそうだな、そんじゃいいわいとなっておりました。ですがこの『叫(さけび)』たまたま近所でやっていたので観に行きました。黒沢清さんの作品は『 CURE 』をビデオで観たくらいだったのですが、観終わって普通に面白いじゃないのよ。面白い邦画(日本語映画と言ったほうがいいか)を観たときって嬉しさも倍増で、やはり日本語の微妙な言い回しとかがわかりますし、ロケーションの場所が知っているところだと(マイナーな場所だとなおさら)妙に興奮したりします。地続きな感覚がありますもんね。『叫(さけび)』は東京の湾岸地帯で殺人事件が起こり、解決するためにがんばりますよ、という話。この湾岸地帯っていうのが、開発中なのか、途中で頓挫して中途半端な状態なのか、だとすると年代的にはいつくらいなのかとか、ボーッと現実とすりあわせるような事をしながら観てました。この映画には強烈な”悪意”に魅入られる人々を描いていて、その”悪意”ってのは無差別全方位に放たれており、フッと弱ったときに風邪ひいちゃうみたいな、そんな感じ。”悪意”はおばけとなって現れるのですが、さすが東京のおばけは最先端で、昼間に出てきちゃう、足もあるし向こうが透けて見えることも無い。刑事の役所広司さんが捜査のため湾内を作業船で行くのですが、この作業船を操るのが加瀬亮さんで、このシーンを見ながら「あんた別のところで役所広司さんに弁護していただくのよ、失礼の無いようにしなさいよ」と、加瀬亮さんの叔母になった心境で語りかけていました。”母性”ではなく”叔母性”なのは何故かわからんよ。ここは顕著にそう感じたのですが東京湾岸の開発地帯ということで『機動警察パトレイバー 劇場版』を思い出しました。水面から東京を眺めるこの感じ。あと小西真奈美さんが、普段より黒目を増量しての出演。大満足で劇場を出、夜も更けた立体駐車場をトボトボ歩いていると、他所の階でタイヤの鳴る音が聞こえる。ガランとした立体駐車場内に響き渡った音がまさに『叫(さけび)』のそれで、しばし固まる。なんか劇場から持ってきちゃったかしら?魅入られちゃったかしら?