役づくりと役づくらないづくり。『ゾディアック』

邦題:『ゾディアック』

原題:『 Zodiac 』

原作:『ゾディアック』 ロバート・グレイスミス

製作会社:ワーナー・ブラザーズ

監督:デヴィッド・フィンチャー(『ファイト・クラブ』)

出演:ジェイク・ギレンホール ロバート・ダウニー・Jr マーク・ラファロ アンソニー・エドワーズ ジョン・キャロル・リンチ イライアス・コティーズ クロエ・セヴィニー アダム・ゴールドバーグ

日本公開:2007年6月16日

冒頭、米国は独立記念日のカリフォルニアはバレーホ。お祭りな夜、郊外からさらにひと気の少ない場所で車を停めたカップル。ゾディアックによるゾディアタックがあっての昼間空撮で海からのぞんだ町並みに”4週間後、カリフォルニア州サンフランシスコ”と出、地味なオープニングクレジットがはじまると「あー映画だ、映画観とるわあ」となり、あとは一気に二時間半。……いや一気とは行きませんが、30年以上に渡り未だなお未解決であるゾディアック事件に関わる人々を時系列に沿って淡々と描いてゆきます。デヴィッド・フィンチャー監督作品に見られるアクロバティックなカメラワーク、映像表現はパンフレットのインタビューにもあるように、自ら封印で淡々の淡々。と、言いつつタクシーを真上からとらえたり、暗号や犯行声明文が新聞社内に重なって映されるなどお楽しみもございます。サンフランシスコの新聞社で風刺画を描いているジェイク・ギレンホールさん。ある日新聞社にゾディアックから犯行声明の手紙が届く、ここから記者のロバート・ダウニー・Jrさんとともに事件に魅入られて行くのです。映画はキャスティングでいかようにもなると思いますが、この『ゾディアック』は見事すぎる。特にロバート・ダウニー・Jrさんが事件にほんろうされてゆくさまが素晴らしい。そしてジェイク・ギレンホールさんの変わらなさ、役づくりのしなさが笑ける。後半はほとんどジェイク・ギレンホールさんの独壇場で、警察が州を越えた捜査の壁で追い切れなかった事象を検証し、最重要人物に近づくのですが、けっこうな年数を経たはずなのに全部同じ印象、というか全部、方眉チョイ上げ半口開けのポカン顔なのに驚く。おまえ。他、マーク・ラファロさんのチョイ高い声がいいアクセントになり、アンソニー・エドワーズさんが御髪のあること!ドクターグリーンがスーツ着てるとか思い、後半ちょっと出てくるアダム・ゴールドバーグさんのヒゲの密度に震え、クロエ・セヴィニーさんは見せ場が無かった。そして『ザ・シューター 極大射程』に続いて出演作の公開が続くイライアス・コティーズさんがマラナックスという豪快な役名で登場し、バレーホの警察でジェイク・ギレンホールさんをたらいまわしにして、そのあとちょっといい人になります。しかし時間が経つにつれ警察が容疑者を「もうこいつでいいじゃねえか」的なやけっぱち捜査になるってのは怖いねえ、事件はこれだけじゃないですからね、警察としてもどこかで切り上げないといけないわけです。全編フィルムやビデオではなくハードディスクで撮影されたっていうけど、決定的に何か違うという印象はございませんでした。これは作り手にとって大きいことなのかもしれません。