『尋常人間 ZERO 』

『尋常人間 ZERO 』
2008年3月28日(金)〜2008年3月30日(日) 全五公演(土日は昼夜公演)
下北沢本多劇場 全席指定:6000円


演出・脚本:鈴木おさむ
出演:今田耕司 上原歩 千原ジュニア 市川しんぺー 町田マリー 小木博明

■いつ稽古したんだろうというね。夜中だったそうですけど、今田耕司さん舞台初主演『尋常人間 ZERO 』。いきなりセット上部に「ラストチャプター 尋常人間 ZERO 蝶」と出て「?」となる(蝶のところは蝶のイラストが描かれていた)。マンションの一室、部屋の外には刑事の市川しんぺーさん率いる警官隊。部屋の中には今田耕司さんと足首を鎖につながれた(!)上原歩さん。市川しんぺーさんが投降を呼びかけるが、今田耕司さんはそれにこたえず、上原歩さんを絞め殺してしまう(!!)。崩れ落ちる上原歩さんに今田耕司さんは「ごめんな」と声をかける、そのときベッドの上にある上原歩さんのケータイが鳴った。着信メロディは少年隊『君だけに』……。

■とまあ「ど」の付くシリアスな幕開けとなった『尋常人間 ZERO 』満席の本多劇場もシンと静まりかえって、わたしも「うへーこういう話なのか」と困惑。暗転してこんどは「チャプター8 尋常人間 ZERO 」と出まして、以降「チャプター7 尋常人間 ZER 」「チャプター6 尋常人間 ZE 」とチャプターをひとつずつさかのぼって、タイトルが一文字ずつ削られて上演されていきます。映画なんかだと、冒頭にクライマックスのはじまりを見せて、物語のはじまりにさかのぼるってのはよくありますが、これはそれとはちょっと違う。一つの物語を九つのチャプターにわけて、それをひとつずつさかのぼるんです。「疑問」「謎」に対する前ふりがチャプターをさかのぼると明らかになってゆく構成には唸りました。

■舞台装置は中央に回り舞台があり、今田耕司さんの部屋と学校の職員室がブラインドによって背中合わせに作られていて、このブラインドは基本閉まっているけど角度を変えて向こうが見えたり、後半はここが開け放たれる。そんで『君だけに』とか。ほかは舞台の脇に机と椅子を置いて警察の取調室に見せたりする。

■チャプターがさかのぼってゆくとコント仕立てのところも出てきて、今田耕司さんと千原ジュニアさんに小木博明さんが加わって、台本があるのか無いのか「ひとつまみの愛」に関する無茶ぶりで笑う。あとホッともする。

■ドラマ部分は市川しんぺーさんと町田マリーさんがしっかり支えているので安心。町田マリーさんはエロスも少々あり。

■『君だけに』を男衆が歌うところはもう会場なにがなんだかわからず大笑いの大拍手。

■登場人物たちが複雑にからみあっていきつつ「チャプター1 尋」が終わるとここからキーとなる場面が時系列順に(チャプター1→2→3……)フラッシュで上演されまして(ここは観ているときはサービス過剰と感じましたが、舞台をあまり観たことない人が多いはずですのでアリでしょう)再び「ラストチャプター 尋常人間 ZERO 蝶」と出て冒頭のマンションのシーンへ。もちろん同じことが起きるのですが、受ける印象が全く違うというね、お見事!

■この時期今田耕司さんは『週刊現代』によるぼんやりとしたバッシングを受けており、それが舞台をよりスリリングに観せていたように感じました。”強姦”か”和姦”かというね、舞台上ではハッキリとは描きませんでしたけど、それを匂わせるシーンがありましたので必要以上にドキドキ。もちろん作り手はそれを狙ってはいないのでしょうが、舞台はナマモノというかショウマストゴーオンだなあと思いました。

■シリアスに始まって、中盤に充分笑わせて最後はシリアスにしめる。たっぷり楽しみました。