百聞は一見しただけじゃわからん。『甲野善紀身体操作術』

甲野善紀(こうのよしのり)さんは1949年生まれで武術の研究をされてます。武術の研究をスポーツや実生活へ応用するヒントを各地を回って講座を開き、広めています。広めていますって言うか「呼ばれて来ました」的な感じかしら。甲野善紀さんは指導者っていう感覚は無いみたいで、自分より体重のある人を椅子からひょいと持ち上げ、「これこれこういう風にやると身体がこうなるから持ち上がります」てなもんでタネを明かしちゃう。あとは各自にやらせてみながらコツを教えて、出来たら”出来たね”ということですよ。身体の使い方は武術にとどまらず、介護の現場や楽器の演奏姿勢にまでいたるんですね、なんかちょっとコツを教えて次々と自転車に乗れるように”身体に気付かせる”とでもいう感じ。そうなるとつかみどころが無くなるんですよ”不思議だなあ”ってのだけが残っちゃう。確かにこの体験をした方たち、それも武術の経験がある方のインタビューでは「説明が難しい、実際に体験しないとわからない」と言っているのでそういうもんなんでしょうけど、歯がゆいわ。ドキュメンタリーとは言っても、なにか目標に向かってとかは無くて”いま甲野善紀さんという人がいて、武術を通した身体の使い方をみんながポカンとした目で、見ています”という現状を伝えるに留まっているのが残念。じゃあつまらないのかと問われれば、これほど題材として面白い物は無いんだよ。とくにラグビーの指導者の講座は最高で、あんな”ラグビー指導者”が一堂に会したところを見る機会なんか無いからニヤニヤしっぱなし(クローン戦争が起きたのかと思ったぜ)、そしてヒョイと脇へ除けられたゴツイ男に対するまわりの上下関係に笑う。唯一見ただけでその凄まじさがわかる場面が、舞台の稽古場を訪れた甲野善紀さんが魅せる抜刀術。生きるか死ぬかの場面でどう動くかってのはビックリのちウットリ。ほか、息子さんの尋常でない日焼け姿や、一人で稽古する手裏剣も必見ですぞ。ただし音楽の使い方は鬼減点だ、教材ビデオじゃないんだからよう。あくまでも入り口として観たい、だから継続して映像で残していただき第二第三弾を観たいですね、頼んます。